NAS(Network Attached Storage)は、効率的かつ安全なデータ保存手段として注目を集めています。しかし、その利便性の裏には、データ消失やシステム障害といったリスクも潜んでいます。万が一のトラブルに備えるためには、適切なバックアップが不可欠です。
本記事では、NASのバックアップの必要性や、バックアップ先の選定方法、さらにはバックアップ時の注意点などを詳しく解説していきます。データの安全性を確保し、トラブル発生時にも迅速に復旧できる体制を整えるための参考にしてください。
NASのバックアップが必要な理由
NAS(Network Attached Storage)は、ネットワークを通じて大量のデータを保存するためのストレージデバイスです。しかし、NASに保存されたデータが常に安全であるとは限りません。データの消失やトラブル発生時の原因解明のためには、定期的なバックアップが不可欠です。以下で、NASの基本知識とバックアップが必要な理由を解説します。
NASの基本知識
NASは、ネットワークに接続して使用するストレージデバイスであり、複数のユーザーが同時にアクセスできるのが特徴です。一般的には、家庭やオフィス内でデータ共有をするためのファイルサーバーとして機能します。NASはパソコンに有線接続する外付けHDDとは異なり、独自のOSを搭載していて、ファイルの管理やアクセス権限の設定が可能です。
さらに、RAID構成によるデータ保護機能も備えているため、データの冗長性を高めることもできます。このような利便性がある一方で、ハードウェアの故障やソフトウェアの不具合、さらには人的ミスやサイバー攻撃などによるデータ消失のリスクも存在します。
データの消失を防ぐため
NASに保存されたデータは、以下のような理由で消失する可能性があります。
- ハードディスクの故障
- ソフトウェアのバグ
- ウイルス感染
- 物理的な破損や自然災害
- 人的ミス
- サイバー攻撃
企業などが扱う重要なデータが消失すると、経済的損失や信用の失墜を招く恐れがあります。そのため、定期的なバックアップを行い、データ消失リスクを最小限に抑えることが必要です。バックアップを適切に行うことで、万が一のトラブル発生時にも迅速にデータを復旧し、業務の継続性を確保することができます。
ログを確認しトラブルの原因を解明するため
NASのデータに問題が発生した場合、バックアップデータと比較することで、どこに問題があるのかを特定することができます。例えば、ファイルの破損や不整合が発生した際には、バックアップデータを参照することで正常な状態との差異を分析し、原因を突き止めることが可能です。
また、ウイルス感染や不正アクセスによるデータの改ざんが疑われる場合も、バックアップデータとの比較が有効です。バックアップが適切に行われていれば、問題発生前の正常なデータを迅速に復元し、業務への影響を最小限に抑えることができます。
NASのバックアップ先3つとそれぞれの特徴
NASのバックアップ先にはいくつか候補があり、それぞれの特徴とメリット・デメリットを理解することが重要です。以下に、3つの主要なバックアップ先について解説します。
NAS
- 維持費がかからない
- ネットワーク接続なので設置場所に制約がない
- 導入時に手間がかかる
NASのバックアップ先として、別のNASを利用することができます。NASは、一度購入すれば継続的な維持費がほとんどかからないので、長期的には経済的です。また、ネットワーク接続で利用するため、オフィスや自宅内のどこにでも設置できるという点がメリットです。しかし、初期設定や導入時には手間がかかります。特に、大容量のデータを扱う場合やRAID構成を導入する際には、ある程度の専門知識が必要です。
外付けHDD
- コストパフォーマンスが高い
- 簡単に導入できる
- 有線接続なので置き場所が制限される
- 盗難や故障のリスクがある
外付けHDDは、コストパフォーマンスに優れたバックアップ先です。初期費用が比較的安価で維持費もかからないため、個人ユーザーや中小企業にとって手軽に導入できる選択肢となります。簡単にセットアップできる点も魅力ですが、USBなどの有線接続が必要なため、設置場所は限定されます。また、物理的なデバイスであるため、盗難や故障のリスクが伴うこともデメリットと言えるでしょう。
クラウドストレージ
- 物理的な制約を受けずにデータを保管
- 高いセキュリティ基準によるデータ保護
- 月額料金が発生し、データ量によってコスト増加
バックアップ先として近年急速に普及しているのが、クラウドストレージの利用です。クラウドストレージはインターネットを介して利用するため、物理的な制約を受けずにどこからでもデータのバックアップと復旧が可能です。また、高いセキュリティ基準を備えており、データの暗号化や多重バックアップによって高い安全性が確保されていることも大きなメリットです。
しかし、クラウドストレージの利用には月額料金が発生し、データ量が増えるとコストも増加する点に注意が必要です。また、インターネット接続の速度によっては、バックアップに時間がかかる場合もあります。
NASのバックアップ方法はどれが良い?条件別で比較
NASのバックアップ先について解説しましたが、どれを選ぶのが良いのでしょうか。
NASのバックアップ方法を選定する際には、安全性、コスト、導入のしやすさを考慮し、自社に最適なものを選ぶことが重要です。以下で、NASのバックアップ方法を条件別に比較してみました。
安全性
バックアップ方法 | 安全性 | 説明 |
NAS | 中 | RAID構成でデータ冗長性を確保 |
外付けHDD | 低 | 物理的な盗難や故障のリスクがある |
クラウドストレージ | 高 | 高度なセキュリティと多重バックアップにより高い冗長性 |
NASは、適切に管理すれば高いセキュリティ機能を発揮します。また、RAID構成を利用することで、ハードディスクの故障に対するデータの冗長性を確保することが可能です。
外付けHDDは、価格帯にもよりますが、高度なセキュリティ機能が備わっているとは言えません。また、物理的な盗難や故障のリスクも存在します。
多くのクラウドストレージは高度なセキュリティ基準を満たしており、非常に高い安全性を提供します。物理的な障害や故障に関する責任を、ユーザーが負わないという点もメリットです。また、複数のデータセンターにおける多重バックアップにより、冗長性が高く、自然災害などのリスクにも強いと言えます。
コスト
バックアップ方法 | コスト | 説明 |
NAS | 中 | 高額な初期投資が必要だが、長期的には低コストで運用可能 |
外付けHDD | 低 | 比較的安価だが、故障時には買い替えが必要 |
クラウドストレージ | 中 | 初期投資は少ないが、データ量に応じた月額料金が発生する |
NASは、比較的高額な初期投資が必要ですが、一度導入すれば長期的には低コストで運用できます。
外付けHDDは初期費用が安価で、特別な維持費もかかリません。しかし、物理的な故障リスクがあるため、買い替えの費用が発生する可能性があります。
クラウドストレージは初期投資が少ないものの、データ量に応じた月額料金が発生します。大量のデータをバックアップする場合にはコストが増加するため、長期的なコスト管理が必要です。
導入のしやすさ
バックアップ方法 | 導入のしやすさ | 説明 |
NAS | 中 | 設定や管理に一定の専門知識が必要 |
外付けHDD | 高 | 初心者にも簡単なセットアップで利用可能 |
クラウドストレージ | 高 | 物理デバイスの設置や設定が不要で、契約すればすぐに使える。 |
NASを導入する際には、初期設定などに一定の知識や手間が必要です。特に大規模なデータを扱う場合やRAID構成を導入する場合には、時間や労力が求められます。
導入のしやすさに関しては、外付けHDDが最も簡単です。USBなどの有線接続と簡単なセットアップだけで、初心者でも容易に導入できます。
クラウドストレージは物理デバイスの設置や設定が不要で、サービスに契約するだけで利用できます。さらに、多くのサービスが充実したサポートを提供しているため、導入時の心配もなく安心です。
バックアップの種類
バックアップには、主に、イメージバックアップ、ファイルバックアップ、レプリケーションの3つの種類があります。用途に応じて適切に使い分けることで、効率的にデータの安全性を確保することができます。以下で詳しく解説します。
イメージバックアップ
イメージバックアップは、ディスク全体をコピーする方法です。OS、アプリケーション、設定ファイル、データファイルなど、システム全体をイメージファイルとして保存するため、システムを丸ごと復旧したい場合に有効です。例えば、ハードディスクの故障やシステムがクラッシュした場合でも、イメージバックアップを用いることで、短時間で完全な環境を再構築できます。ただし、イメージバックアップは、バックアップのサイズが大きくなるため、十分なストレージ容量と時間が必要です。
ファイルバックアップ
ファイルバックアップは、特定のファイルやフォルダのみをバックアップする方法です。重要なデータのみを選んでバックアップするため、作業時間やストレージ容量を節約できます。ただし、システム全体の復元には適していないため、システム障害時の対応には別のバックアップ方法を併用する必要があります。
レプリケーション
レプリケーションは、リアルタイムで別のバックアップ先にコピーする方法です。常に最新の状態がバックアップされるため、障害発生時にもデータ損失を最小限に抑えることができます。レプリケーションには、ブロックレベルのレプリケーションやファイルレベルのレプリケーションがあり、ニーズに応じて適切な方法を選択することができます。
バックアップの方式の違い
バックアップには、フルバックアップ、差分バックアップ、増分バックアップの3つの方式があります。
- フルバックアップ:すべてのデータを毎回バックアップする方法です。完全なデータセットを常に保持できる反面、時間とストレージを多く消費します。
- 差分バックアップ:最後のフルバックアップ以降に変更されたデータをすべてバックアップする方法です。バックアップ元のデータを削除すると、バックアップ先のデータも削除されます。
- 増分バックアップ:最後のバックアップ(フルでも増分でも)以降に変更されたデータのみをバックアップする方法です。最も効率的な方法であり、バックアップ元のデータを削除しても、バックアップ先のデータは残ります。
NASのバックアップにおいて注意するべき点
NASのバックアップは、単にデータを保存するだけでなく、トラブル発生時に迅速かつ確実にデータを復旧できることが重要です。そのためには、いくつかのポイントに注意する必要があります。以下で、NASのバックアップにおいて注意するべき点を解説します。
複数のバックアップ方法を組み合わせる
単一のバックアップ方法に頼るのではなく、複数のバックアップ方法を組み合わせることが重要です。特に、バックアップの冗長性を重視した「3-2-1ルール」を徹底しましょう。
「3-2-1ルール」とは以下のとおりです。
- 3つのデータを持つ:2つのコピーを作成し、元のデータを含めて合計3つのデータを用意します。
- 2種類の異なるメディアに保存する:例えば、1つはNASに、もう1つは外付けHDDやクラウドストレージに保存します。万が一、1つのメディアに問題が発生しても他のメディアでデータを保持できます。
- 1つは別の場所に保管する:コピーの1つは物理的に離れた場所に保管します。これにより、災害等が発生しても、遠隔地に保存されたデータで復旧することが可能です。
データを重要度別に整理しておく
毎回すべてのデータをバックアップするのは効率的ではありません。バックアップを効率的に行うためには、データの重要度に応じて整理しておくことが必要です。
例えば、業務上不可欠なデータや機密情報は、複数のバックアップ先に高頻度で保存することが望まれます。一方、日常的に使用しないデータや古いデータは、低頻度のバックアップでも問題ないでしょう。バックアップの優先順位をつけることで、バックアップにかかる時間やストレージ容量を節約できます。
法人で利用するなら毎日バックアップをする
法人でNASを利用する場合、データの量や重要性が大きいため、毎日のバックアップを推奨します。特に、顧客情報や財務データなど、日々更新される重要なビジネスデータは、頻繁にバックアップを取るべきです。定期的なバックアップを実施することで、データの一貫性と整合性を維持しやすくなり、業務の継続性を確保することができます。
バックアップ先には鍵をかける
バックアップを取ったから安心というわけではありません。バックアップ先が外付けHDDや小型のNASである場合には盗難のリスクがあるため、保管場所には厳重に鍵をかけましょう。また、物理的な鍵だけでなく、デバイス自体にもセキュリティロックを施すことが重要です。
一方、クラウドストレージは物理的な盗難や紛失というリスクはありませんが、不正アクセスを防ぐための対策は必須です。多要素認証やアクセス権限の設定など、クラウドストレージのセキュリティ機能を活用しましょう。
時間に余裕を持ってバックアップ作業を行う
バックアップ方法やデータの転送速度によって異なりますが、一般的にバックアップ作業には時間がかかります。特に、企業などで大量のデータをバックアップする場合や初回のフルバックアップは、数時間では完了しないこともあります。事前にスケジュールを立て、業務時間外やシステムの利用が少ない時間帯などに実施し、業務への影響を最小限に抑えましょう。
まとめ
NASのバックアップは、個人や企業の重要なデータを守り、万が一の事態に迅速にデータを復旧するための重要なプロセスです。自社に最適なバックアップ方法を選び、冗長性を高めるための対策を取ることが大切です。本記事を参考に、自社のバックアップ体制を見直してみてはいかがでしょうか。